‡描いた未来‡
01
私は、生まれつき病気を患っていて、昔から学校帰りに毎日のように通院していた。
それでも病気は悪くなる一方で、小学校を卒業すると同時に、こうして入院することを余儀なくされた。
それから早二年と半分。本来なら中学三年生の筈だが、結局中学校には一度も行ったことがない儘である。
数少ない友人たちも、中学に入ると部活があったり定期テストがあったりで、平日は殆ど来れないらしい。
それでも土曜日には必ず来てくれるから、その日が唯一の楽しみだ。
だからそれ以外の日は、こうして屋上に来て街の景色を眺めたり、歌を歌ったりして時間を潰している。
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暫く屋上に佇んでいると、ガチャリ、と扉が開く音がした。少し驚いて振り返ってみると、そこには一人の男の人が立っていた。
「...誰?初めまして、で合ってるよね??」
「はい。綺麗な歌声が聞こえてきたのでつい...」
「...そんなこと言って貰ったの初めて。ありがとう」
そう言ってから彼の方へ数歩近づく。
改めて見ると、緋と蒼の二色を持つ瞳に、特徴的な髪形。一目見たら忘れられそうにもない外見だ。
それに遠目からではそんなに分からなかったが、かなりの長身であるようで、見上げなければ全く顔が見えない。
「私、っていうの。」
「僕は...六道骸、です。」
自分の名前を告げると、彼も小声ではあるが名前を教えてくれた。
「六道、君...よろしくね。ってもう会うこともないかもしれないけど。」
「そういえば...。貴女はここに入院でもしているのですか?」
「うん。ちょっと病気でね。でも何年もいるとすることもないし、毎日来てくれるような人もいないしで退屈だから。こうして毎日ここで歌ってるんだ。
六道君はどうしてここに来たの?」
「僕は友人が怪我をして入院しているので、お見舞いに来ただけですが。」
「そっか。ちゃんと行ってあげてね。お見舞いに来てもらって喜ばない人はいない筈だから。」
それは私がいつも思うこと。忙しいからと毎日は来てくれないけれど、それでも友人が訪ねてきた時は本当に嬉しい。
「...はい。」
「じゃあ、私はそろそろ自分の部屋に帰るね。」
今日は四時半から検査がある。そっと腕時計に視線を落として時刻を確認すると、四時二十分を少し過ぎたところだった。
「あ、明日も来て良いでしょうか?」
そのまま別れを告げられると思っていたら、返ってきたのは意外な一言だった。
「来て、くれるの...!?
うん。もちろん良いよっ!!この時間なら大概ここにいるから。じゃあ、また明日ね。」
私はそう言ってから、屋上を後にする。
いつもは重い病室へと戻る足取りが、自然と軽くなっていた。
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