‡僕等の恋路‡
01
「骸様、こんなところまでありがとうございます。」
ベットの上に座っているクロームは、そう言ってペコリと頭を下げた。
―――――そう、今僕等は病院にいる。
クロームが足を怪我してしまい、数日入院することになってしまったのだ。
だから僕はこうして、着替えとかの入った鞄を持ってきたわけで。
「では僕はこれで帰りますが。何かあったら遠慮せずに連絡してください。」
「はい。」
クロームが笑顔で頷いたのを見て、そっと病室を出る。
と、どこかから微かにだが歌声が聞こえてきた。
どこから聞こえてくるかは分からない。でも、それほど遠くではないはずだ。
だから。ただの興味本位で、その声の発生源を探しに階段をのぼっていく。
上からという確証はなく、ただ何となくで進み始めたがどうやら当たりだったらしい。
階段を上り階数が増すごとに、少しずつその声は近くなってくる。
そのまま進み続け、やがてたどり着いたのは1つの扉の前。そこをあけた先には屋上があるだけ。
別に立ち入り禁止になっている訳ではないけど、人がいることは殆どないであろう場所。
扉を開けても、そこには誰もいないかもしれない。けれども僕はその扉を開けてみた。
その先には広いようで広くないような開けた空間があって、反対側のフェンスから下を見下ろすようにして少女が1人立っている。
刹那、扉を開けた音で気づいたのか、少女が振り返ってこっちを向いた。
彼女の容姿は白金色のロングヘアに、瞳の色は水色に近い青色。左目には治療用の白い眼帯がつけられている。
「...誰?初めまして、で合ってるよね??」
そう話す少女の声はどこか儚げで、そしてとても心地良いものだった。
「はい。綺麗な歌声が聞こえてきたのでつい...」
「...そんなこと言って貰ったの初めて。ありがとう」
少女はそう言ってニコリと微笑み、そして数歩僕の方に近寄ってくる。
「私、っていうの。」
「僕は...六道骸、です。」
いきなり自己紹介をされ、気づけば自分も名前を口にしていた。
「六道、君...よろしくね。ってもう会うこともないかもしれないけど。」
そう言って彼女は少し寂しげに笑う。
「そういえば...。貴女はここに入院でもしているのですか?」
「うん。ちょっと病気でね。でも何年もいるとすることもないし、毎日来てくれるような人もいないしで退屈だから。こうして毎日ここで歌ってるんだ。」
何年て...ちょっとと言える単位ではないと思うのですが...。
でもそんなことを口に出せる筈もなく、とりあえず自分の中だけに留めておく。
「六道君はどうしてここに来たの?」
「僕は友人が怪我をして入院しているので、お見舞いに来ただけですが。」
「そっか。ちゃんと行ってあげてね。お見舞いに来てもらって喜ばない人はいない筈だから。」
「...はい。」
「じゃあ、私はそろそろ自分の部屋に帰るね。」
「あ、明日も来て良いでしょうか?」
何故そんなことを口にしたかは分からない。
けれど、があまりに寂しげに笑うから...。
「来て、くれるの...!?
...うん、もちろん良いよっ!!この時間なら大概ここにいるから。じゃあ、また明日ね。」
彼女は満面の笑みを浮かべ、屋上から出て行った。
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